小説
あたしは吉岡と店の外にしゃがみ込む。中の喧噪と切り離された外の空気の冷たさが気持ちいい。どうしても嫌なのだ。この店の中には五年前の人間達がいる。あたしの人生のなかで、もうすでに出番を終えた登場人物どもが集っている。そして松島鉋〈かんな〉———…
あたしはきっと小学生の時からなにひとつ変わっちゃいない。姿形がどれだけ変わろうとも、あたしの中身は常に変わらずにあったと今では思う。友達が入れ替わり、環境が変わっても、あたし自身は変わらず連続していた。しかし、人は変わらなければいけない。…
国道を一時間ほど走って地元の村さ来に到着する。地元に帰ってきたのは何年ぶりだろうか。しかし外を流れる風景の懐かしさに目を向けることもせずに、その間あたしは運転中の吉岡の横でぐっすりと熟睡していた。例え車の中だろうが、すでに十二時間以上睡眠…
今日が二十歳の誕生日だったことに気づいた五分後に日付は変わった。十年前のあたしはこんな形で二十歳を迎えることを想像していただろうか? あのころあたしはいつまで経っても自分が大人にならないことを信じて疑わなかったし、それから十年経ってハタチを…